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九重の山地には、風土記が撰進される以前から人々が住み、山岳、森林への伝仰が「山の神」「すがもり」として伝えられている。中世以降は、木地師たちがケヤキ、クリ、ヤマグワ等の豊富な天然林を求めて九重の山林に移り住み、山々は天台密教の信仰の山となった。江戸期には植林、開拓が広まり、頼山陽も通った竹田、日田を結ぶ「日田街道」が整備され、炭焼きに伴うシイタケ栽培も始まっている。そうした人々の足跡が、数々の遺跡、伝承、信仰や生活の中の技術として今も残っている。
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北原白秋や与謝野晶子が、その広さを詩った九重の大自然。 四季折々に美しく装う飯田高原は、ノーベル賞作家川端康成の名作「続千羽鶴」を生んだ |
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筑後川の源流域、久住飯田高原から阿蘇外輪山に至る雄大な自然と原生林は、水を育み人々に自然の豊かな恵みを与え続けてきた。又、津江山系の御前釈迦岳にある全国屈指のシオジ林を含む原生林は、筑後川源流域で最大の規模のものである。
九重連山は、九州本土最高峰の中岳、大船山、久住山をはじめとする1700メートル級のトロイデ火山群によって形成されている。地質年代の若い火山で、一部を除き深い森林は発達していない。山頂部には火山の影響や冬期の季節風のためミヤマキリシマ等の低木林が見られ、山腹は野火や伐採などによってミズナラ林が広がっている。山腹は本来ブナ林の発達する高度であるが、黒岳等に一部見られる他はコナラ林やミズナラ林の中にわずかに点在する程度である。
久住、飯田高原は、毎年行われる野焼きによって維持されているススキ草原であり、小さな池沼、湿地が点在し湿地植物など貴重な種を多く保存している。本来は放牧、採草地でカシワ林、クヌギ林が一部に見られるが、開発が急速で規模も大きい為、貴重種で絶滅の恐れのあるものが多い。
又、黒岳山麗や九酔渓、鳴子川渓谷や野上川の渓谷部にはオヒョウ林、トチノキ林、ケヤキ林など谷型の森林が一部に発達している。
大船山のミヤマキリシマ群落と九重山のコケモモ群落は、國の天然記念物に指定されている。
(佐藤三千代「九重の植物」参照) |
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